ヒット曲の基準(変わるモノサシ)

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連休中の6日に朝日新聞に掲載された「ヒット曲の基準(変わるモノサシ)」という記事。少し乱暴だ。音楽チャート先駆者のビルボードの歴史や、アメリカ・レコード業界の変遷があったら、もう少しわかりやすい。朝日新聞の記事は、「レコードやCDの売り上げが楽曲の人気をストレートに反映すると言えた時代は2000年代以降のネット配信の広がりで終わりを告げる」と書く。日本だけがネット配信で終わりを告げていない国なのに。

チャート先駆者の米音楽業界誌ビルボード。1950年代半ばまでビルボード誌は人気があるシングルのチャートを3つ作っていた。レコード店で売れたチャート、ラジオ局がかけた曲、ジュークボックスで客がお金を入れて流れた曲の順位。当時音楽は、ジュークボックスのある店で、踊る為の道具でもあった。1958年、これらのチャートが合体して新しいシングル・チャートが誕生した。ネーミングもTOP100からHOT100に変更された。売り上げではなく人気度(HOT)のチャート。57年前からそうなっている。レコード店やラジオ局やジュークボックスを置いた店からは全て申告制だった。その後ジュークボックスが衰退、チャートに反映されなくなる。

シングル・チャートは長らくレコード・セールスとラジオでの放送回数で作られた。変化が起きたのは1980年代の後半からだ。83年にアメリカでもCDが登場したが、CDシングルはレコード会社にとって全くのお荷物だった。レコード会社にとって、そもそもビニールのシングル盤はあまり利益を生まないもので、アルバムの宣伝材料として発売していたようなもの。CDシングルは製造コストが高く、レコード会社はCDシングルを発売しない。下の図はアメリカ・レコード協会が発表している年間の出荷数量比率。CDが導入された1983年。アルバムはLPとカセットで、CDの出荷数量は全体の0.5%。まだシングル(日本で言うドーナツ盤。海外では製造原料からビニールと言う)は7.2%あった。

レコード1983


そして3年後、1986年の出荷数量で、CDとLPが拮抗する。ビニールのシングル盤はまだ4.9%ある。カセットが半分を占めるのは、アメリカが車社会だからだ。

レコード1986


そうした背景でレコード会社がとった戦略は、ラジオ局に対して、これはシングルとして発売はしませんが(市場が縮小し、CDで出したら儲からないとは決して言わず)、アルバムからの推薦曲ですと売り込んだ。それがエスカレートする。業界用語でアルバム・カッツ(Album Cuts)という。シングル盤になっていない曲がちまたに流れまくる。人気の度合いでチャートを作るビルボードは、シングル・チャートの作り方をラジオ局でのかかり方に大きくシフトした。1時期比率はセールスが25%で、ラジオでのエアプレイが75%だった。そして5年後の1991年にはビニール・シングルは0.8%の出荷比率で、ほぼ消滅する。CDシングルはその半分の0.4%しかない。そしてこの年、レコードの実売調査会社サウンドスキャンがサービスを開始する。翌1992年、ラジオ局でどんな曲がかかったかをモニタリングするBDS(Broadcast Data Systems)もスタートする。申告制ではなく全てが実数の時代になる。この2社とも後にTVの視聴率調査で有名なニールセンに買収される。

レコード1999


しかし市場は混乱する事がある。2002年の事だ。オーデション番組「アメリカン・アイドル」がスタート。優勝した素人タレントに、おびただしいファンがつく。彼等彼女らはその曲が収められたアルバムに興味が無いというよりは、購入する金がない。結果レコード会社は儲からないシングルを発売し、ファンはシングルのみを購入する。そしてビルボード・シングル・チャートで多くの優勝者のシングルが初登場1位になった。まだビルボードのチャート作成には当然セールス(実売)が含まれている。シングルがあれば人は購入するという良い見本だった。

アップルのスティーブ・ジョブズは考えていた。どうして消費者は好きな曲だけを安価に購入出来ないのだろうかと。当時レコード会社はシングルを発売する代わりに、「アルバム・カッツ」と称して、1枚のアルバムから次々と推薦曲を提示した。ラジオ局からするとその曲は、レコード会社が宣伝費を使うという曲である。ラジオ局にとっては「コケない」という安心感がある。スティーブ・ジョブズはラジオで大ヒットしているが、レコード店にシングルがないという事に目をつけた。インターネットでデジタル販売をする計画を立てる。デジタル・ウォークマンのiPodを売る為だ。

ここからは当ブログ筆者の個人的憶測だが、スティーブ・ジョブズから相談された米ソニーミュージックは親会社のソニー(米国)に相談する。そのソニー・アメリカは日本の親会社に相談する。ソニー本社は子会社で最も元気がある日本のソニーミュージックに相談をする。日本のソニーミュージックは親会社に「アルバムが売れなくなり、レコード会社にとってダメージが大きい」とNGを出したかも知れない。歴史にタラレバはないが、アップルよりは先にソニーがウォークマンの後継機種としてiPod風ウォークマンを発売していたかもしれない。

iTunesストアーでのデジタル・ダウンロード販売が音楽の世界を変えた。ビルボードはほとんど存在しない実物のCDシングルとダウンロードとラジオ局の放送回数でシングル・チャートを作成する事になる。

そしてYoutube等のストリーミング回数が加味される事になる。ビルボードの根柢にあるのは常に「人気がある曲」のベスト100だ。余談だがジャマイカで、レゲエはシングルが発売される事は殆ど無い。大昔の日本の様に、音楽ファンはラジオで聴くだけでレコードは買わない。ミュージシャンが苦労して作った音楽に、金を払うかタダで聴くか。新しい定額制音楽ストリーミング・サービスを始めるアップルに注目が集まる。アップルはスポティファイのような、金を払わない会員向けのサービスはやらないと音楽業界関係者は見る。いずれにせよ、ビルボードのシングル・チャートは、消費者が金を払おうが払うまいが、人気のレコードでチャートを作っていく。

これまた余談だが、イギリスでは長い間、シングル・チャートは日本同様、レコードの売り上げだけで作られた。しかしチャートを上げたいレコード会社は通常のシングルに加え、長尺のマキシ・シングル(30cm)や各種リミックス盤、あげくにはレコード盤に絵があるピクチャー・ディスクまで同時発売し、チャートの上位を狙った。全て合算してくれたからである。結果、不正ではないが好ましくないとして、合算というやり方は廃止された。



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